散歩の記録 / 邂逅

八太栄里 Eri Hatta 《光と塵》 2023年 72.7×91cm アクリル、キャンバス八太栄里 Eri Hatta 《拠点》 2023年 41×31.8cm アクリル、キャンバス八太栄里 Eri Hatta 《語らずとも》 2023年 41×41cm アクリル、キャンバス

 

八太栄里 個展「散歩の記録 / 邂逅」

 

会期:2023/6/24(土) – 7/14(金)12:00-19:00  (日、月、祝– 休廊)
※初日の17時〜オープニング・レセプションを開催します。
※展覧会の作品リストをご希望の方は、info@masataka-contemporary.com までメールをお送りください。

 

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散歩という行為を意識しだしたのはコロナ禍がきっかけだと思う。私は途方に暮れるとあてもなく歩き回る癖があるようで、緊急事態宣言で外出を厳しく制限された2020年の春、言うに及ばず私は近所を歩き回っていた。地元でも、あまり行ったことのない方面を歩いてみる。前から気になっていたけど用が無いので行ったことのなかった道をあえて行ってみる。そこで出会う風景は、いつもの道から少し逸れただけなのにどこか知らない土地へやってきたかのような新鮮さがあり、突然与えられた空白の時間を満たすには十分すぎる娯楽だった。

 

もともと歩くのは好きで、歩く中で見つけた気になる風景や変なものの写真をときたまSNSにアップしていた。それを見ていた知り合いから地元で路上観察のワークショップの講師をしない?と誘われたのも、ちょうど緊急事態宣言の最中だった。緊急事態宣言が解除され、県を跨いだ移動や人と接することが解禁になったものの、まだまだ未知のウイルスへの警戒心は高く、どんな行動が正しくて間違っているか分からない中で、あたりの様子をうかがいながら6月の下旬にひっそりと第1回目の路上観察のワークショップを開催した。地元の駅から銭湯まで、私が毎日のように歩く道を地元の人から県外の人まで、集まってくれた10名ほどでそれぞれが気になったスポットの写真を撮りながら歩く。ただそれだけの内容なのだが、600mほどの道のりを歩くのに1時間半かかり、静かに白熱した会となった。散歩を誰かと共有するのは未知の楽しさがあることを知った。同じ道を歩いてもそこにいる人の数だけ視点があり、自分では見過ごしてしまう部分や誰かと共有することでうまれる想像の連鎖がある。何千回と歩いた道に、新しい発見があったことがうれしく、それだけで日常が豊かになった気がした。以降、地元を拠点にしたこの路上観察会は2年に渡って計8回開催した。この経験はそれまで無意識に行っていた散歩が自分の創作と結びつく重要な要素だと認識するきっかけになった。日々の中で歩くこと自体が目的に変わり、風景を見る視点について考えることで直接作品に影響したことも大いにあるだろう。

 

最近では、例えば展示の在廊で遠方に行くことがあれば必ず散歩する時間をとっている。余裕があれば散歩するための遠出もしたいところだ。散歩をすることで、風景との予期せぬ出会いを期待している。その風景がいずれ絵に描けたら良いが、描けなくても良い。いつもふと思い出すのはひとりであちこち歩きまわっているときに見た情景だ。記憶の風景を描くことは時間を切り取り、記録することであるが、風景を通して自分自身を描くことでもあるのだろう。個展はその都度、自分の現在地を示す場だと考えている。歩くことが創作に結び付く今、これまでの散歩の記録を示したい。

 

八太栄里

 

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八太栄里 プロフィールはこちら
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